目 次
第1編 「年金」について
本テーマのトップを切って、5回に分けて、老後の生活費の中心や残された家族の生活の糧となる「年金」について取り上げます。1~4回は老後の生活費の中心となる「老齢年金」について、5回目は残された家族の生活の糧となる「遺族年金」についてお話ししたいと思います。
「年金は老後生活の要(かなめ)」(1)
▼はじめに
老後の生活費の中心は「年金」です。2019年の国民生活基礎調査によりますと、1世帯当たりの平均所得金額の構成割合は、高齢世帯では「公的年金・恩給」が63.6%となり、さらに、「公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯」は48.4%となっております。ほぼ半数の老後世帯は、公的年金・恩給で生活していて、まさに、「年金は老後生活の要(かなめ)」と言えるのではないでしょうか。
「人生100年時代」のマネープランを語る際に、「年金」の知識は不可欠です。特に、多くの自衛官は退職後、働き方の選択肢はあるとはいえ、老後は「年金」に頼る場合が多く、やはり「年金」の知識は必要になると考えます。
しかし、年金制度は度重なる改正により、とても複雑な制度となっており、一朝一夕には理解が出来ないのが現状です。また、制度の理解が不十分なため、知らないうちに不利な選択をしている場合もあり、基本的な年金制度を知っておくことは最低限必要であると考えます。
そこで、まずは、「年金」について復習をしたいと思います。
▼「年金」の復習
皆さんもご存知のように、「年金」には「基礎年金」と「厚生年金」があり、いわゆる2階建てとよく言われます。しかし、公務員や大企業では、いわゆる「企業年金」という制度があります。
自衛官OBの方で、共済年金制度に加入されていた場合は、「経過的職域加算」と呼ばれる企業年金的な年金が加算され、「厚生年金」に移行後は、「退職年金」という名称で加算されます。大企業では、「企業年金」が100万円以上も加算されるところもあり、老後の大きな糧となっています。
年金給付の種類について、主要なところでは、老後の生活のための「老齢年金」、障害になった際の「障害年金」、万が一の時に家族に支給される「遺族年金」があります。
「老齢年金」を見てみますと、「基礎年金」は、20歳から60歳まで加入可能で、満額で約78万円です。「厚生年金」は現役時代の平均給与(月額)と在職年数により、もらえる年金額が異なります。また、70歳まで加入可能ですので、再就職、再々就職においては、社会保険制度が整っている会社に就職すると、将来もらえる「厚生年金」が増えます。
「厚生年金」がどのくらい増えるかと言うと、生涯年収を180万円増やすと、年金が約1万円増えます。このことを知っておくと便利な場合があります。例えば、年収360万円で5年間働けば、年金額は10万円増えるということで、自分で働きに応じた将来の増加年金額を計算できるという訳です。
「人生100年時代」を生き抜くためには、万が一の時に使える資産を残しておくことも大切です。そのため、出来るだけ年金だけでの生活を考えることも大切ではないかと思っています。多くの方は、年金での生活のため、支出を減らすことを考えがちですが、節約ばかりに気を取られると生活が楽しくないので、年金を増やすことを考えることも良いかと思います。
今後、年金の繰下げ(年金をもらう時期を遅らせる)についてお伝えしますが、現在は75歳まで繰下げ可能で、75歳から受給すると、65歳時の1.84倍になります。しかし、気を付けなければならないことも色々とありますので、年金繰下げの個所で注意点も含めて詳しくお話ししたいと思います。
▼「在職定時改定の導入」(厚生年金)について
さて、政府は令和4年4月に「年金制度」を大きく改正しました。その中には「人生100年時代」を生きる働くシニアを支援するために、制度を改正したものもありますので、令和4年4月の年金改正について、「年金」の基本事項に触れながら解説しましょう。
令和4年4月の改正事項については、①在職定時改定の導入、②繰上げ受給の減額率の見直し、③繰下げ受給の上限年齢引上げ、④在職老齢年金制度の見直しなどがありますが、今回は、「在職定時改定の導入」を取り上げます。
制度の概要としましては、在職中の65歳以上70歳未満で「老齢厚生年金」を受給している人は、年金額が毎年1回定時に改定(1年間に納付した保険料が年金に反映)が行われるようになったというものです。毎年9月1日に厚生年金保険の被保険者である場合は、翌月10月分の年金から改定されます。
今までは、65歳以降も働き、「厚生年金」の保険料を納めていた人は資格喪失時、例えば退職時や70歳に到達し、「厚生年金」の資格を喪失した時だけ、保険料が反映され、年金額が改定されていましたが、今回の改正で「働いた分が、毎年、年金に反映される」ことになりました。先ほどご紹介した「生涯年収を180万円増やすと、年金が約1万円増える」という計算を使えば、どのくらい年金額が増えそうか予測がつきます。
政府は、65歳以降も元気に働くシニアを応援する施策として制度を改正しましたが、矛盾もまだまだ多くあります。例えば、60歳以降に支払う「厚生年金」の保険料には「基礎年金」の保険料も含まれていますが、その保険料は「基礎年金」には反映されていないのです。また、在職老齢年金の制度(給料の金額が多い場合は年金額が減らされる:今後お話しします)は、「厚生年金」の適用が終わる70歳を超えても、会社に雇用され給与所得を得ている限りは適用されます。
年金制度は「人生100年時代」を想定して作られた制度ではなく、60歳には完全引退をし、年金支給を想定していた制度でした。しかし、少子高齢化の影響で年金財政が厳しくなると、20年掛けて年金支給年齢を5年遅らせて65歳としました。この際に、60歳から年金をもらえると期待していた人に色々と配慮したため、年金制度はとても複雑になりました。第2、第3の人生を歩む自衛官OBの皆さんには、「年金」に限らず、社会の制度を理解し、賢くそれらを活用し、豊かに生き生きと活躍して頂きたいと思っています。
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