「生涯現役社会」の実現

人的戦力を確保できるか

    前回まで取り上げたように、我が国は、先進国の先頭を走って「少子化」と「高齢化」が同時に進行している。よって、我が国独自の「少子高齢化」対処モデルを作り、早急な対策を講じる必要があると考えるが、自衛隊に対する影響も少なくないだろう。
    中でも、最も深刻なのは、自衛官の募集対象人口が減ることだろう。すでにその影響が出始めているが、定年延長を含む様々な制度改革と関係者の努力によって何とか人的戦力を維持している。だが、「少子化」がさらに続けば、遠くない将来、現状程度の人的戦力の確保が困難となる可能性がある。自衛隊にとっても正念場を迎えると予測する。

「生涯現役社会」の導入・普及

    本シリーズの目的は、「人生100年時代」の到来を自衛官としていかに考え、対処するかにあるので、「高齢化」に焦点を置きながら筆を進めよう。
    さて、「『生涯現役社会』の実現なくして未来はない!」とのスローガン、安倍元総理が何度も歓呼していたので記憶に残っている人も多いことだろう。
    この政策の狙いは明らかだ。ターゲットを高齢者や専業主婦に定め、仮に人口が減っても労働力人口が減らないようにする(労働力率を高める)ことにあった。特に、高齢者がもっと働き、税金や社会保険料を納めれば、「支えられる側」から「支える側」にまわり、財政負担も軽くなる。それは、生産年齢層減少の対策でもあり、高齢者が勤労収入を稼ぎ、もっと多くの消費をすれば経済の成長も促される。
    さらに、働くことによって健康が維持されることから医療費削減の可能性があるなど、一石何鳥ともいえる、うま味のある政策なのである。
    下表は、1992年と2017年の年齢層別の歩行速度を比較したグラフであるが、男性は10歳分、女性は20歳分、歩行速度が速くなっている。加齢によって、短期記憶能力は下がるが問題解決能力や言語能力は上昇するというデータもある。「生涯現役社会」の導入を可能にする背景として、今どきの高齢者は若返っているのだ。

    かつて60歳定年の頃、「人生80年のうち40年しか働かないのはバランスを欠く」との指摘があったが、現在は、「人生100年時代」である。「高齢者雇用安定法」改訂が今年4月1日より施行され、継続雇用年齢も70歳まで引き上げられた。それを実現するため、定年廃止、定年延長、再雇用、再就職支援、個人事業主・起業支援など、様々な雇用促進施策がすでに走っている。
    自衛官も定年延長中であるが、最大60歳までであろうから、「若年定年」は依然、残るだろう。「人生100年時代」になって、自衛官にとって “益々長くなる” 「定年後」のための準備が必要になってきているのである。